脱サラして船を買い、釣り船をはじめた。
そのタイミングで母が買い換えたミシン(刺繍機能付き)で研究して刺繍屋もどきをはじめた。
最初の1枚目のワッペンは今見たら恥ずかしいが、当時はかなり感動して「これは売れる」ってことで商売をはじめた。
当時はメーカーの直売店があったんだが、直売店が撤退してしまい地元ミシン店に引き継がれた。
そのミシン屋の最初の一言は「(この機種で仕事は)できませんよ」だった。
ミシン刺繍ってのは数百万の刺繍機と100万円前後するソフトがないとできないというのが常識で、今使っているソフトはオモチャと言われていた。販売しているメーカーですら、別メーカーの100万円のソフトを勧めるくらいだった。
今となっては年1回メーカーでミシン販売店向けの講師をさせてもらい、今や「オモチャ」というソフトでも十分作れるという実績は作れたと思う。
シャアのようなことを言うが、ミシンやソフトの性能が刺繍の決定的な仕上がりではない。
ソフトは座標を指示するツールであって、材料の組み合わせだと思っている。
個人的には1990年代の刺繍パッチ(ワッペン)が一番綺麗だと思っている。
当時はデジタイザーという座標拾い用の機材を使って1針ごと拾っていたそうで、気のとおくなる作業と「1針○円」という計算もその名残らしい。デジタイザーは土地家屋調査士や測量士が、法務局にある公図から座標を拾ったりするときに使う機材でもあり、私も少しだけ使っていた。測量や土木建築の知識があったのでミシン刺繍を体系に考えることができたのだと思う。
持論はコンピュータミシン刺繍は縫製やデザインの世界ではなく、土木建築に近いと考えていて、デザインの勉強してきた人は模様のズレがなぜ起きるのか理解するまでに時間を要する。指示したとおり縫われるというほど簡単な世界ではない。
運良く刺繍の世界に入り、まだ10年も経っていないのに講師まで勤めさせていただくようになったし、他の刺繍店よりもクオリティーが高い刺繍を作る自信はある。機材を片っ端から買い集めて満足しているような所にはクオリティーでは負ける気がしない。
こっちは低コストでやっているので、あれもこれもやらない。10cm角以下の世界で精度を追求する感じでいきたいと思っている。
ただ、運が悪かったと思ったこともある。あんま下調べしなかったのが悪かったかもしれない。
刺繍屋もどき、刺繍屋ごっこからはじめたので、単価を安くしすぎた。
コンピュータ刺繍は機材をたくさんもっていればコストが下げられるが、データ作成料金が高くつく。
かつてデジタイザーで1針ごと拾っていた時代の名残や、高いソフトのコスト回収の影響もあって、版代がやたらと高かった。
だから何とかしようと思ったのも、刺繍屋をはじめた一つの理由。
安いソフトを使っているので安くできると考えたが、クオリティーを追求するならそれなりに手間がかかる。
1針ごとにどこに力が逃げるかを考えて微調整し、テストして仕上げて行くからそこそこに手間がかかる。
というわけで来年から値上げしようかなと・・・
値上げしようと考えた理由がもう一つ。
友達関係の刺繍を安請け合いしすぎた。
刺繍で手間がかかるのはミシンの縫製ではなく、データ作成。
データができればあとはミシンが殆ど仕事してくれる。人の手がかかるのはセッティングと糸処理やフチなどの仕上げのみ。
友達関係やそのつながりだと、1点ものとかも持ち込まれる。
暇なときならできるが、「まだかまだか」と連日聞かれれば、正直やる気もなくしますよ。
待たせてるお客様だってたくさんいるのに。
友人関係でも「クオリティー高いから是非」と言ってくれるのはありがたい。
友達だから安く作ってあげたいし、できれば単品でも作ってあげたい。
急げ急げの電話やメッセージが正直しんどい。
ほんとうに・・・。
精度も高く、単品で安く作ってくれ、できるだけ早くやれって、そういう仕事やってくれる業者いると思います?
試しに他の刺繍屋に出してみてくれ。
そしたら意味がわかるはずだから。
というわけで友人関係やその紹介でも単品は作らないことにします。
こんなことばかりしてたら潰れるわ・・・。
単品は横振り刺繍の業者に頼んでくれ。
クオリティー?横振りだってすごい技術持ってる人多いんだ。
コンピュータ刺繍のきっちりした作り方をしたいなら、1点でも受けてくれるところをググってくれ。
びっくりするくらい高いはず。それだけ手間かかってるんだから高くて当然。
うちのクオリティー求めるなら、まずサイト読んでくれ。いきなり持ち込まないでほしい。
対応してるだけで時間が取られて他の仕事ができないんだ。
1時間に相談料3全円取っていいなら喜んでやるけどw
以上、日ごろのグチを吐き出してみましたとさ。
あーすっきりした。